富士宮サウンドを聞いて、スピーカーの位相の問題
位相と言っても、様々な問題がある、電気的にプラスマイナスを合わせる、各ユニットの振動板またはボイスコイルの位置を合わせる、ユニットの音源を合わせる、測定器で合わせる、しかしそこには簡単に片付かない問題がたくさん潜んでいる。
ネットワークで、カットオフ周波数が被っていたり、離れすぎないで、しかもレベルがしっかり決まっている事が前提になるが。
電気的に合わせると言っても、私の様にネットワークの問題もある、コンデンサーやコイルでずれてしまった位相は、正直測定不能である。結局最後は耳で合わせる事になるが、それがなかなか合わない。
それで色々な教科書を読んでみるが、先人達の知恵で、ある程度は解明されているが、その通りにやってみても、やはりどれも的を得ていないのである。
真剣にやっていくと分かるが、最後は耳で決めるしかない。しかし基本と言うものが出来てないと、そこそこまですら辿り着けない。私はパイオニア時代の木下さんの文献が参考になった。
次に振動板やボイスコイルの位置を合わせるであるが、これは些かナンセンスである。それはなぜか?ユニットによって動作のスピードが違うからである。
先ずは高い周波数から。ドライバーとツィーターは比較的合わせ易い方である、しかし3ウェイともなると、ウーハーが追加される。私は長年そこで苦しんでいる。
やはり低音をそこそこまで鳴らそうとすると、どうしても38㎝以上の口径が必要になる。ウーハーはドライバーやツィーターに比べ振動板であるコーン紙が大きい為、動作が遅いのである。そしてコーン紙が大きいので、それを支えるダンパーやエッヂもある為、正確にレスポンスしない。そこも位相と立派に関係がある。そして、バスレフの穴がある。
動作のスピードとユニットの位置は、電気的以外に立派な位相となる。
しかし、それをクリアーしたのが前回登場した富士宮のオールマルチ6ウェイスピーカーである。しかし主はこれだけ突き詰めて尚、他の部屋にある電気磁石のランシングのウーハーユニットにはスピードが追い付かないと話された、とても興味深かった。
マルチは電気的な位相歪みは少ない。しかし左右前後の位置で苦しんだと主は話していた。
だから私は驚いたのである。スリーウェイでさえまとめる事は困難なのに、ものの見事に6ウェイで、まとめていらしたからである。その音は何度でも聞いてみたい凄まじい音であった。
主のシステムはこんな感じであった。プリはマークレビンソンのステレオタイプの最高機種を二台、各々片チャンネルずつ使い、つまりモノラルとして使用。
パワーアンプは、静寂を求め電源を徹底的に強化し、隣の部屋へ12台のマークレビンソンの最高機種(総て同じ機種)を各々電源を単独回路で繋ぎ距離を離し、エアコンを別電源で完備し設置。これだけでも凄まじい執念である。
そして、その総てのボックス、ケーブル、ホーンは完璧な主の特注だった。そしてスピーカーの設置してある床が聞くスペースと隔離された床だった。これはスピーカー以外の他の機材へ振動を伝えない最高の方法と思われた。そして壁は軽石と聞いた、同じ形の石は一つもなく、どこで手を叩いてみても全く同じ音であった。そして、それの意味するものを想像してみてほしい。定在波が凄く少ないのである。正直呆れたが、そこ迄やって尚そこが主のスタートである。
そこから位相をユニットの位置を徹底的に合わせ、更にイコライザー等で完璧に近く追い込んでいる。
総ての音は静かで鋭角なのだが尖ってはいなく、柔らかいのである。そして素敵に細やかで、鮮やかであった。
しかし、主の方法には一つだけ欠点がある。ケーブルの純度が超高く距離があるために、接点のメンテが非常に大変なのではないか?それだけである。後は申すところはない、自分がそこ迄辿り着いていない未知の世界であるからである。
マルチは富士宮の主の様にセンスがあれば、完璧になる事は分かった。しかし普通は無理である。その理由は、私も含め、誰も一流を知らないからである。
富士宮の主は羨ましいほどのセンスと、一流を見抜く力と財力を持っている怪物だと思う。
そして何よりも貪欲で謙虚である。私はお話ししていて頭が上がらなかった。
私はマルチで位相を完璧に合わせることは絶対に不可能だと思ってきた。しかしそれが何と6ウェイで見事にドンピシャ合っている。これは驚異以外のなにものでもない。
位相の問題、そこにはケーブルも絡んでくる。そして主のアースが驚異的なのだと思う。アースに落とすか落とさないかのスイッチが付いていたのである。驚きの連続だった。
そして、実売されている電源ケーブル総てを実際に配線してみて、太さと作り方の音質の違いを聞き比べた跡がリスニングルームに残っていた。「全部聞いたよ」とサラリと言った。そして選ばれた電源ケーブルを使われている。
頭で考えない、先ずは実行する。こんな人間に誰が勝てるだろう。しかもそこには絶対的な間違いのない理論があっての事である。これはオーディオ以前のお話しである。
「理論が総てである」と彼が話すならば分かる、私はそう思った。良いにも悪いのにもちゃんとした根拠がある。それを私以外に更にやってみた人間がいた、凄く嬉しかった。そうでないとオーディオケーブルは語れない。
知らないで語るのと知ってて語るのには、聞き方に違いはあるものの、答えに雲泥の差があると言う事である。
しかし私もプロである。私なりに富士宮という次なる尾根を見つけた。今は追い付かないが、違う方向からその尾根を目指そうと思った。
センスと謙虚な心、本当の一流を見抜く力があれば、いつか完璧な位相を見付ける事が出来る。そして、そこからはじめて個性を出せば良い。その時、オーディオは生を越える。
しかし、今回残念だったのは私が富士宮に、努力して製作したウエスタンスピリッツのケーブルを持参して行かなかった事である。
ほぼ完璧な位相のスピーカーシステムは存在する。しかし、誰も同じ道を辿るなかれ。勉強し正しく理論を持ち、いつか辿り着いたらそこから個性を出そう。
日本のオーディオフリークよ…貴方のオーディオは全く鳴っていない。