現実逃避
この家に越してきて、早いもので丸六年経ちました。
父は三年前に亡くなりました、母は認知症になり、離れた施設でお世話になっています。
家内はまだ働いておりました、父と母の介護は大変で越してきて三年程は私独りの肩にかかりました、自分の仕事もあり、毎日火のついたようなスケジュールでした。
父が亡くなり、家内も仕事を辞めてくれ少し身体があきました。
そこではじめて自分達の時間がとれました、そして車も必要と思い購入しました。
ある日家内に聞いてみました「結婚してからまともな旅行もしていない、少し贅沢なホテルに泊まって美味しいものを食べよう」と。
家内はオーケー、そしてあちこちドライブがてら行っていたのです。
旅行とは出発の日を心待ちにしてる時が一番楽しい、そう思います、フレンチを食べながらシャンパーニュを飲みました。
確かに楽しいのですが、帰るとまた母の介護が待っています。
うんざりしますが、また旅行に行ける、そう思い我々は母の自宅介護を頑張ったのです。
母には朝昼晩にお弁当が届くように依頼し、何かあったら困るので、お弁当を受け取ってるか安否確認の連絡をいただけるように依頼し、総て滞りなく行っていただきました。
母は去年の年明けから認知症が進み、便失禁が多くなり、自宅介護を断念、四月に母を施設へ預け、それから少し旅行へ行きましたが、去年の六月を最後に旅行は行かなくなりました。
施設からの伝票で一ヶ月のオムツの数は330枚です、と言う事は、起きてる間は一時間おきに取り替えてる計算になります。
当然夜中も替えてると言う事になります、実際はどうなってるか分かりませんが、施設には頭が下がります。
そして思います、我々が頻繁に行ってた旅行は、総て現実逃避だったのだと。
文章を読むと簡単そうに見えるのかも知れませんが、狂った人が一人でも同じ家に居ると、家族全員が狂って来ます。
答えはないですが幸いしたのは、我々夫婦に子供が出来なかった事です、本来ならば二十七、八歳の子供がいて、母の孫となる子が助け舟になったのかも知れませんが、それは結果論であり分かりませんね。
現実逃避も必要な時間だったのです。
家庭により諸事情あるとは思いますが、在宅介護にはやはり限界があります。