ortofonのカートリッヂ
私がortofon SPUA/Eを使い始めたのは35歳の事だった。所沢のオーディオショップで知り合い、私が師匠と慕ったNさんから極上品を格安にて譲って頂いたのである。
その前はSPUマイスターを使用していた、オリジナルに取り換えた瞬間に音の落ち着きと解放感を感じた。最近のSPUはどれも基本は変わらないのだが、何を鳴らしても元気がなくオーケーとは言いがたい。
ジャンルを選び音に芯がないのである。付属の刷毛(ハケ)でボリュームを上げたまま針先を弾いてみたら分かる、新しいSPUは音がボソボソである。選ばれたる昔のSPUはバチバチっとなり音に甘さがなく、刷毛の毛の一本一本があたっているのが分かる、コイルのコアが違うのだ。
その音の違いが、音楽を再生した時に同じな筈がないではないか。みんな存在すら知らないだけなのである、そんな音のするSPUはなかなか市場に出てくる筈がない。
入荷したとしても店主の手の中に入ってしまうか、お金持ちの常連に渡ってしまうからである。今までの私のオーディオ人生の中でも三本しか知らない。たくさん購入してみたが、二度と手に入らなかった。
それにしてもSPUの基本構造は1950年代から現在も殆ど進化していないのである、これは驚異的な事である。
適正針圧を含め総てが完成されたカートリッヂだと思う。針圧の軽いカートリッヂもたくさん出現したが、使っているとレコードに細かなノイズが増えてくる。そしてCDの出現と共に総て消えていった。
レコードは塩化ビニールである、針圧が軽いと針先が上手くトレース出来ず飛んでしまう、ortofonはこれを熟知していたのだろう。
そして、音溝は針圧で広がる、それも7~8時間で元に戻る事もカッティングマシーンを開発したortofonは熟知していたのだと思う。
カートリッヂはそれだけを見ていては作れない、レコードがどうなっているのか、使われる状態と共に、密接に関係しているからである。
そしてortofon SPUは適正針圧が総て3gとは限らない、貴方の耳で適正針圧を探すしかないのである。
いついかなる時も一貫していて、SPUだけは私を裏切らなかった。ちゃんとトーンアームを含め、調整出来たならばソースを選ばない優れたカートリッヂである。