今使ってる機材を使いこなす
とにかくお金がなかった、時代が泡立っていたので沢山稼いでいたが、総て美味しいランチとオーディオ&レコードにお金を使い果たし、何時も貧乏だった、欲しいものがあると後先考えず食べて購入していた、それは家内と結婚しても全く変わらなかった。
「優れたものを使えばいい音になる」そう思っていた、確かにそれも大切な事なのだが、違うと気がついたのは、三十四~五の頃だったと思う。
機材の設置の仕方、機材の下に何を敷くのか、何故ホーン&ドライバーはうるさいのか、何故ウーハーは引き締まって低い音階が軽やかに鳴らないのか、何故CDPはアナログと比べ劣るのか、まだまだ疑問は沢山あるが、この様な事をひたすら考え、彷徨っていた。
そして東京近郊のヴィンテージオーディオショップで、後に師匠となるウエスタン研究家のHさんと知り合った。
「オーディオは難しい」これが師匠のいつもの口癖だった、そして私はオーディオの難しさとお金のなさを心底味わう事になった。
師匠からはオーディオに対する姿勢を、実にたくさん学ばせていただいた。
銭があってもセンスがなければオーディオは出来ない、銭が全く無ければオーディオは出来ない。
そして機材の下に敷くものの大切さを知った、ホーン&ドライバーがうるさいのはスピーカーを内側に振りすぎたり、ホーンの後ろが上がり過ぎたり、時にはネットワークの部品の品位だったりした。
低音が素直に鳴らないのは、ユニット構成も多少関係してるが、ウーハーから低音が床を伝わり、機材に伝わり鳴らなくしているのもある。
しかし未だに誰も気付かない、私がこれだけ書いて来てもである。
後はケーブルである、これも師匠から伝授された「太さではなく、どんな素線をどの様に組み合わせどの様に作るのかである」と何度もお伝えいただいた。
今は進化して独自のリッツ線になったが、師匠から伝達された絹巻きを今も継承している、絹糸は巻きつける糸の太さやテンションでアクセントをつけられる、正に最高の絶縁素材だと思う、確かに絹より帯電しない被膜素材もあるが、音がペタペタしていて良くない気がする。
絹糸被膜は音がしなやかになり、開放的かつ自然な音質である。
間違いながらもここへたどり着くように歩んできたオーディオ人生だった。
しかし古いものを何とか使いこなす、これが大切である、今使ってるものもまともに鳴らせないで、優れたものを購入出来たとして、本当に優れたものからそのスペックを引き出せるのだろうか、強くそう思う。
何を使っているかでなく、どう使っているのか、これだけは経験を積むしかないようである。
今使っているものをしゃぶり尽くそう、その経験は決して無駄にならないと思う。
そこから音質改善するとよくわかると私は思う。