音や味の継承
私はオーディオ屋なので味覚に関しては素人です。
昔は美味しかったなんて、本当はあまり言いたくはありません、しかし最近美味しいと感じるお店が加速度的に減ってきた気がする。
確かに大手のお店に行ったら何時も同じ味を食べる事が出来る。
しかし私が美味しいと思える味とは、遠い昔に食べた思い出が残っていなくてはならない、これが総てであるが全く残っていない。
しかし街は様変わりしてしまった、どこに行っても似ていて(接客も含め)個性がない、なぜもっと普通のものを作れないのか?こねくり回しすぎ、そう思ってしまう。
ワインやシャンパーニュならば散々飲んできたので、瞬時に好みか好みでないか判断出来る、購入した後にセラーで何年寝かせたら飲み頃なのか、もっとこの情報がワインショップに欲しいのです。
プロフェッショナルがいない時代、私はこう思う、人には想像した味や音の基本と言うものがある。
最近職人の修行の時間が足りないのではないか、なぜもっと普通に作る事が出来ないのか、ひょっとしてアルバイトが作ってるのか?と思う程酷いメニューもある。
美味しい食べ物や音は人によって違うのである、しかしその中でも外してはいけない基本の味と音と言うものがあると思う、それを忘れている、今は何でもありそんな感じ。
今はもの珍しくて良いのかもしれないが、これが出来ないお店から姿を消すのでのではないか、うちのお店は色々なものを提供しています、量が多ければ残して下さい。
接客は味にも繋がる、それが駄目だと味も半減してしまうのです。
そもそも繊細な味や音の継承など出来る筈がないのです、ならば音の継承もなかなか出来る訳ないですよね?
私のケーブルも同じです、私は何にも教えません、基本中の基本だけです、それでも食い下がって来る者は何とかなります。
私にはひとりの弟子も出来なかった、過去に何人も一緒に同じ音を目指した方もたくさんおりました、しかしあまりの指の痛みに耐えきれず、皆さん泣く泣く諦めて辞めて行きました。
「私には絶対に作れる」と言って来たのに…出来上がったケールは、見た目は確かに私の作ったものと酷似しています、音を聞いてみると全く別物、つまり絹糸の巻き付けが甘いのです。
絹巻きケーブル作りとは、糸が切れるかテンションで指が切れるかの攻防なのです、痛いのを我慢しひたすら巻いていると、水膨れの後に指にタコのようなものが出来て痛くなくなるのです。
しかし慣れるまでは確かに痛いのですが、完成した時の達成感がたまらないのです、これは私にしか分からないと思います。
痛みを伴う修行なので大変なのです、なかなか継承には至りません、なのでもう弟子をとる気はありません、私の代で終わりです。
ウエスタンスピリッツのケーブルとは 、まだまだではありますが、正に化け物「規格外」であります、これでも完璧なものなど作れないのです。
私はたまたまこの仕事に向いていたのだと思います、多分誰にも継承は出来ません。
何でもそうです、一つのものを人に伝える努力は必要ですが、これが出来ないのです。