穏やかな音
今のウエスタンスピリッツの音には棘のようなものはない。
オーディオに携わるようになり、色々体験するうちに自然と気がつき、今のような鳴り方を構築出来た。
昔はJBLらしさを求めていた、ジャズのシンバルだけにスポットをあてたかのような、ヒリヒリしたストイックな危ない鳴り方だったと思う。
しかし女性ボーカルはどこか薄く、高橋真理子(桃色吐息)などはキンキンしていてうるさかった。
「高橋真理子はそんな声なのだ」こんなアホな事を考えていた。
そして東京近郊のヴィンテージオーディオショップで、後に師匠となるウエスタン研究家のHさんと出会った。
目つきが鋭く体系は細く背は小さいが、経験値が高く聡明な方だった。
その方からオーディオとは?音とは?ケーブルとは?これらをご伝授いただいた。
お伝えいただいた時は、考えが180度違うので、その真意が分かるまで20年はかかったと思う。
私は紆余曲折あったがずっとJBLを使って来た、しかし中音が薄くてうるさい、そして音がスピーカーにへばりつきはがれない、この対処法がなかなか分からなかった。
CDにせよレコードにせよ、ソフトには膨大な情報量が記録されている、この情報量をどれだけ正しく引き出す事が出来るのか、これにかかっている。
かなり鳴ったと思っても更にその上がある、その連続だった、鳴ってくれば鳴って来る程、過去に行った不備が次々と出てくる。
その不備とは例えば低音が気に入らないとする、その時ウーハーばかりを疑っていては駄目なのである、時にドライバーであったり、ツィーターであったり、ケーブルのとりまわしであったり、トーンアームの調整であったりする。
オーディオは広く全体を見張らせないといけない、そして極限まで来たときに、スピーカーが床を鳴らす低音振動が問題だと気がついた。
しかし、スピーカーが鳴らす低音は必要不可欠である、スピーカーの下の床やラックや機材の下を板で固める事により穏やかな音になり、更に低い低音が整って鳴るようになった。
考えるより産むが易し、これだけは行動力でやってみた者にしか真実は分からない。
床の補強も何度もやった、スピーカーやラックの下に取り付けたキャスターも外した、ラックも何度も自作した、なぜなら販売されてるラックは軽く柔で体裁ばかりでいい音ではないからである。
私は自分の財布と相談しながら、妥協なく重量級のラックを自作した、答えは話すまでもない、穏やかで情報量は膨大に増えた。
そのラックには一切の金属(釘やネジ)は使っていない、金属が少しでも介在すると、それだけで安っぽい伸びのない金属の音が付くからです。
とにかくオーディオは広く見張らせる経験と日々の努力が必要です、何の理論もなく次から次へと色々やって「変わった変わった」と喜んでいてはいけません。
何かを追加すると大切な何かも失っているものです、そこにいち早く気付く事が出来る経験値を積むことです。
本物を見抜く目や思考能力もとても大切です、色々やってきたおかげでやる前からその結果は想定出来るようになりました。
「好み」や「やってみなければ分からない」は私は卒業しました、私はオーディオが生業だからです。
低音も中音も高音も、それぞれが生かし合い殺し合い抑え合ったりして帯域バランスを構成しているのです。
広い視野と素直な心があなたのオーディオを構築しているのです、オーディオは物理や科学で大体は説明がつきますが、それだけで立派な音を鳴らせる程簡単ではありません、やはり正しい経験とセンスが必要です。
これが理解出来たなら好みなど存在しない事が分かると思います、あるのは聞いていいか悪いかただそれだけです。