理想の鳴り方と現実の音
これはかなりかけ離れていると思う。先ず部屋の中は静かで外の音は殆ど聞こえない。こちらが動かないので風を切る音もない。
しかし、つぶさに聞いていると、時計の秒針の音や、二十四時間換気の音など微弱ではあるが、室内の音はゼロではない。
古い家屋ならば二十四時間換気はないが、壁や窓の作りが薄い為、外の音も多少聞こえるだろう。
しかし人間の記憶にある様々な自然の音は、風の音と一緒に存在するのである。そしてその雰囲気ごと記憶している。
音楽再生は出来るだけ録られたスタジオと同じ様に部屋を整えるのが最善であるが、無理である。
なぜならオーディオは、どんなに違和感を減らしても現実の音とは全く違うトリックマシンだからである。スピーカーは二本しかない、それで総てが鳴っているかの様に再生しなければならない。
そしてオーディオはどんなに優れていても、音は録音で歪み、たくさんの接点で歪んでいる。元々総ての音は歪んで音を発しているのだが、その歪んで鳴っている原音に対し、忠実に録音しようと各スタジオは努力をされている。
しかし努力をされても原音に忠実に録音することは出来ない。ならば出来る限り録られた側の音を、録音媒体に忠実に再生出来る様にこちらも努力が必要になる。
すなわち語弊はあるが、上手く誤魔化す事が必要になる。テクノロジーは日々進歩している。しかしメーカーは購入されるユーザーのお部屋までは管理出来ないのである。
つまりメーカーは使い手を選べないのである。ならば千差万別となる筈なのだが、どうにも動かない事実があるのである。
色々なやり方もあるとは思うのだが、やはり良い音には定義がある。
では、良い音を文章にしてみようと思う。情報量が多く、特定の周波数が突出したり減衰していない事が第一条件である。
総ての音はクリアーで、あり得ないような低い周波数が引き締まって尾を引きずらないで鳴る事。
中域は、薄くならずふくよかに爽やかに開放的で、実際の人の声や楽器の様に、うるさくならず、やはり潔くクリアーで切れが良い事。
高域は制動が効いて金属的にならず、ドライバーと上手く手を結び、鋭い音を一瞬再生しながらも、やはりうるさくならない事。
一つ一つを聞いてそうなるのでなく、あくまでもトータルで上記のようになっていなくてはならない。
この様な鳴り方に近付けるのにウエスタンスピリッツは、三十年かかったのである。
オーディオを鳴らす為にウエスタンスピリッツは歩きながら、自然の中に身をおいたり色々な方向から音楽再生の音を見つめ直した。
そして色々な音を聞いてる内に感じた事なのだが、オーディオは音が早く切れずモタモタしていてうるさい、と感じたのである。「理想の鳴り方と現実の再生音はかなりかけ離れている」と。
つまり、これが私がいつも呟いてきた違和感のない音の事である。
同じに気付かれていらっしゃる方もたくさんいらっしゃるとは思うが、誰も到達していない。
部屋の響きと現実の自然の中での様々な音の違い、これに違う方向からいかにして近付ける事が出来るかである。
理論的にはどんなに考えても無理な様に感じるが、これを達成する努力をすることがオーディオなのである。
時に、いっけん間違えたと思える方向でも、オーディオでは上手くいく事がある。しかし音を良くする方法はそんなにたくさん存在しないのもまた事実である。
ウエスタンスピリッツは、理想の鳴り方と現実の音、これを生涯追いかけてみたい。