トーンアーム
ウエスタンスピリッツが使用しているトーンアームは、オーディオテクニカのAT‐1005Ⅱである。針圧調整をしやすくシンプルで音が良い。
しかし、シンプルが故に、優れた性能を引き出すには、こちらの腕が試される。特に一番肝心なのは、アームの取り付け穴の位置である。
取り付けるヘッドシェルやカートリッヂによっては、メーカー指定のオーバーハング(この機種は15㎜)範囲を越えたり足りなかったりする。
オーバーハングはとても大切な数値で、ずれると本来の性能を発揮出来ないばかりか、音に天と地の差が生じる。
しかし、残念な事に殆どのトーンアームはこのオーバーハングが正確になっていない。業者にキャビネットを依頼して穴を開けてもらうと結構ずれているのである。
なので私は、自分でキャビネットも作るのである。他人に任せていてはその方のレベルにしかならない。
オーディオ業界は不思議な世界である、キャビネットやスピーカーボックスは作るが、オーディオに興味のない製作者が多い。
オーディオに興味のない方にオーディオキャビネットやスピーカーボックスは作れない。これは私の持論である。
オーディオに興味があってさえ、オリジナルキャビネットやスピーカーボックスを越えるものは作れない。これが現状である。
分厚い板を使い高価なスピーカーボックスを作っている会社があるが、使っている方の音は無機質でつまらない音だった。ただ歪みが少なく低音が下にのびた変な音だった。
オーディオテクニカAT‐1005Ⅱの話に戻るが、とにかくシンプルが故に難易度は高かった。針圧をほんの少し動かしただけで音は変わる。
アームの高さ調整がほんの少し動くだけでも音は変わる。
そしてもっと問題なのは、インサイドフォースキャンセラーのアバウトな糸をかける溝を切った位置である。3㎜は間隔があるだろうか、私はその中間が欲しいのである。
しかし旋盤でも持ってなければ溝を正確に切る事は出来ない。鉄工所へ頼んでもあまり綺麗に切れておらず、釣糸が滑らかに滑らない。
滑らかにおもりが上下に動作してくれないと正確なインサイドフォースキャンセラーはかからない、よって音質も駄目になる。
次にトーンアームの問題点はエンドの5ピンの出力端子である。ここは入り口のところ同様接点不良が多く明らかにエネルギーロスを起こしている。
私は取り外し、入り口からの内部配線も自作してリッツ線に交換している。トーンアームのエンドから少し長めに引き出し、ピックアップケーブルとからげ、音に優れたイギリス製のヴィンテージ半田で留めている。
この端末処理の方法は直にからげ留める事で、からげた上から半田が乗り、中まで染み込む事で接点がしっかりして、空気に触れず、酸化を防ぎ接点不良は皆無になる。
当然かなりの接点が減るため音は劇的に良くなる。ではどう良くなるのか?レンジは格段に広がり重心が低く、現実的な太く濃い落ち着いた音になる。
もっと簡単にお話しすると、元気でまともな聞きやすい音になるのである。
本来はヘッドシェルのリード線も劇的に変化するが、その変化とはアームの内部配線交換とまた少し意味合いが違うのである。ようは変化の仕方が異なる。
トーンアーム一つ取り上げてもこれだけの長文になってしまう。CDと違いアナログは未知の世界であり、こちらの腕が試されるから面白いのである。
ただアナログプレーヤーを購入して「やっぱりアナログだよな」でなく、なぜアナログが優れているのか考えて見て欲しい。
ではアナログの最大の優れたところを私なりに解きたい。アナログのカートリッヂは電源を必要としない、つまり自家発電だからである。
他の機材へ電源からノイズを出さない、また受ける事も少ない。アナログがCDよりも優れているのは当たり前の事で、実は不思議でも何でもないのである。
しかし、アナログから最大限の情報量を引き出す、これが難しいのである。数々のトーンアームが存在する。SAECのWE‐506/30も優れているが、今は製造されておらず、見つけても高価である。
その中で操作性に優れ、シンプルなオーディオテクニカのAT‐1005Ⅱは値段も考慮するに、やはりトーンアームの名機である。