思い起こせば…
三年九ヶ月前に前途も分からず、私達若夫婦は厳しい両親の承諾を得て、実家を建て替え戻って来たのです、私に信用がなかったのでなかなか話は進みませんでした。
私と父の間にはどうしても埋まらない深い溝があったのです、実家を建て替えて戻ってから、一気に溝が埋まったのです、不良だった私を父はあまり理解出来なかったのだと思いますし、私もどうせ話しても分かってくれないだろうと思っていました。
それからは、まるで永久凍土が溶けるかのように一気に距離がつまるようになり、父は我々に頼ってくれるようになったのです。
まだ段ボールだらけの三階で私は一人、レコードを整理していました、すると『おいっ、飲まんか』と父が下から上がって来たのです、私は『はいっ、喜んで』家内は?と聞くと『もう下に拉致して飲んどる』引っ越しのさなか、食べるものは何にもなかったですが、久しぶりでみんなで飲む酒はホッコリしていて楽しかったです。
しかし、そんな父はもういないのです、寂しいの一言です、あの頃はまだ一階から私がいる三階まで上がって来れたのに、最後の方は誤嚥があった為、食事が出来ず水もとろみの付いたものしか飲めない為、日増しに弱っていき、最後は自分の唾液も痰も総て肺に入ってしまい、肺炎になり呆気なく逝ってしまいました。
それでも三年四ヶ月一緒に暮らす事が出来たのです、振り返ると実に様々な事があり、今では父とのきれいな思い出として心にたくさん残っています。
今は父に『ありがとう』この言葉しかありません。
父よ、家内と二人、母さんを大切に、この家を強く守っていきます。
でも父よ、今は貴方だけがいない。