家から少し離れたい
初めて強くそう思っている、いくら育ててくれた母とは言え今や認知症である、何時もまともにとりあってるとこちらまでおかしくなって来た。
「このままでは母の介護も出来なくなってしまう」そうなる前に、まだ母が少しでも気丈な内に、夫婦水入らずで少し羽をのばしたいと考えた。
夫婦とは言っても総てが同じな訳ではない、ましてや男と女である、考え方や産まれてきた意味も違う、しかし確かに、一緒に暮らしてきてあまり語らなくとも通じるものがある、夫婦とは恋人と違い、結婚すると総てが違うのです。
最近歳のせいか、お互い体調を崩し始めた、特に家内である、大切な伴侶に何かあっては困る、私はそう思う。
家内はあまり口に出さないが、そこに他人では理解できない、夫婦だから感じるところがあるのである、少し二人で我が家を離れ、遊ぼうと思う。
何時もお世話になっている熱海のオーベルジュへ、リオン(愛車)に乗って行こうと思う。
しかしやるべき事を完璧にこなしてからでないと、多分、家内は納得しないだろう。
何時もお世話になっているオーベルジュは、我々のわがままを総て出来る範囲で聞いてくれるありがたいホテルである。
個室露天風呂付きのお部屋は広く何時も清潔で、ベッドもソファーもロケーションも総ておしゃれ、我々にはもったいないくらい、料理も好き嫌いを聞いて頂き、嫌いなものは一切出て来ない、お酒(シャンパーニュ)も最高である。
周りに遊ぶところは一切ないが、オーベルジュの中だけで我々夫婦は楽しめるのである、テレビは大きな液晶があるが、我々夫婦は一度も電源を入れた事はない、だから休めるのだ。
だってわざわざ時間の止まったような伊豆へ来たのに、うるさくて下らない観たくもないテレビ番組など必要ない。
部屋にある小さなラジカセで、持参したジャズのピアノトリオ(ビル・エバンスのムーン・ビームス)が小さな聞こえるか聞こえないかの音量で鳴っていたら、それだけで心は休まる。
飽きたら個室露天風呂付きの部屋なので、好きな時に好きなだけ温泉に浸ればいい、そしてそこでも大好きなシャンパーニュをたらふく飲めばいい。
誰にも迷惑をかけず、常識の範囲内でならば正にやりたい放題、これがこじゃれた大人の休日の過ごし方、これこそが本当のイカす遊び方ではないだろうか。
これを家から少し離れやってみたいのです、普段の我々夫婦の介護漬けの生活からすれば、ささやかな願いのようなものなのですが、お互いの為に必要と最近思う。
親の介護も何にもなく、ただオーディオだけやっていられるのならば、それはそれは幸せな人生だろうと思う。
たまにオーディオなどどうでもよくなる、私はオーディオが生業であるが、ここを通らずして果たしてオーディオの真髄など分かる筈もないと思う。
たまには二人で心底遊ぼうと思う、まともな介護をするために。
家から離れた貴方だけのオーベルジュ、あなたも探してみませんか?
そして温泉は気持ちがよくて身体の免疫力も上がります。
大変なのは我々夫婦だけではない、みんな何かを抱え背負い生きている、たまには自分を解放しよう。