昔は良かった
昔は良かった。
私は、ずっとそう思っていた、でもこうも言えないだろうか、今の時代も後になり、あの頃はまだ良かったと。
みんなそう思ってきたのではないだろうか、昔は良かったと思うのは、たんに時代や経済の事だけてなく、若かったからかも知れない。
私の青春時代、とにかく街には物が溢れていた、しかしその高価な商品を、財布を気にしないで購入出来た人は一握りだったと思う。
SONYのウォークマン30000円位、これはアルバイト(月に手取りで9万円)をしていた大学生の私には高嶺の花だった。
でも酒を飲みに行くお金はなぜだかあったのである、ウォークマンは売値が3万円位だったと記憶している、六回位飲むのを止めたら購入出来そうなのだが、それはまた別の話である。
そして会社の近くにあった喫茶店のランチはコーヒー付でだいたいどこも1000円だった、むしろ今の方が安い。
吉野家もあったが体に悪い、あまりまともな肉を使ってないんじゃないか、何か変だ美味しくない、みんなそう話していた、本当にそうだったのだろうか?私は美味しいと思っていた。
しかしその吉野家を毎日食べていた友人は、40歳で戸建てを建てた。
その頃私は借金だらけ、もう首も回らない状態、その借金、今は綺麗になくなったが、地獄を味わった。
私と対照的な友人は、別に節約していた訳ではない、良いものを常に身につけ、ウォークマンも持っていた、しかしとにかく普段お金を使わない、一緒に食事に行ってもいつも彼が一番安いB定食、口座にはアルバイトで貯めたお金が常に何百万と入っていた、彼に実家からの仕送りは一切なかった。
自分には到底出来ないので、私はいつも彼を心の中で尊敬していた、しかしその後彼は、みるみる時代と共に堕ちていき、45歳の若さでこの世を去ったのだ。
これは彼が吉野家の並牛丼をたくさん食べたからそうなったのではない、とにかく私には良い奴だった、社会人になっても仕事が出来た、私は思った…良い奴ってなぜみんな早く逝ってしまうのかと。
私は森山直太郎が好きだ、桜(独唱)を聞くといつも、彼の笑顔と、最後にあった時、桜の花びらがたくさん舞っていた、あの日、あの時代を思い出す。
そして心の中の彼に静かに語りかける。
俺はまだ何も変わらず相変わらずこの時代を生きているよと。
そっちはどうだい?
「変わらないよ」…
過ぎ去って、必ず、あの時は良かったと思うのが分かっているから、私は今が良い、そして明日は更にもっと良い、何も満足するものはなくなったけど、しらけた時代だけど、これが今なのだ。
今は後に必ずこう言われるだろう、昔は良かったと。