トーンアームの調整
私は優れたものをとにかくたくさん使って来た。その結果分かった事は、優れたトーンアームを使いこなすにはセンスであり、上手く能力を引き出すには調整の精度が出ていないといけない。
数年前そこに気が付いた。今はCDが主流になったが、アナログ時代、何でオーディオは上手く鳴らないんだろう。いつも考えていた。
電源プラグやピン端子の清掃等色々あるが、そんなものはオーディオをやっていて当たり前である。やはり肝はトーンアームの調整の匠である。
つまりどんなに優れたターンテーブルやトーンアームを使っていようと、その性能をフルに引き出すには、たぐいまれな粘着質な性格と、それを使いこなすセンスが必要になると言う事である。
調整の精度で音に天と地の差がある。しかしその調整のしかたは公開してもかまわないが、やはりご自分で工夫して探して欲しい。
トーンアームは水平が原則だが、後ろが上がり気味になると高音が増えて、後ろが下がると、低音寄りな静かな音質になる。
しかし、重量盤や薄い盤がある。レコードは重いから音が良い訳ではない。違う盤もあるが、レコードは重い程分厚いのである。ここで気付かれる筈である。
トーンアームの高さ調整に厚い盤を使うのはご法度である。普通のドイツグラモフォンやUSA盤が良い。その普通の厚さの盤でアームが水平に調整出来ていたならば。
分厚い重量盤をかけると低音再生に有利となるのである。つまりトーンアームの後ろが上がった調整は高音が増えて聞こえるが、トレース能力が落ちてる訳である。
なので針先が音溝を引っ掻く形になり少し歪んで、高音が増えて聞こえるのである。しかし二ミリ位の高さオーバーの範囲ならば、むしろジャズのシンバルが鮮やかでカッコいいとも言えると思う。
しかしクラシックの室内楽、特にテレフンケンやアルヒーフ盤をかけるとヴァイオリンが明るく薄くうるさくなるのである。
だからトーンアームの高さ調整は、普通の盤で平行に調整するのがベストである。クラシックの室内楽が上手く鳴らないのは、トーンアームの高さ調整で後ろが上がり気味になっているか、針圧が低いからである。
そして分厚い重量盤を、普通の盤で水平に調整されたトーンアームで聞くと、アームの後ろが僅に下がり、低音が増えて高音が滑らかに聞こえ、あたかも重量盤だから音が圧倒的に分厚いかの様に聞こえるのである。
これは、レコード会社の巧みなノウハウである。重量盤だから余計な振動をしないからではない。
トーンアームの後ろが下がるとカートリッヂの針先は音溝に対しストレスが減り、トレース能力が上がるのである。
あと、インサイドフォースキャンセラーは要らない等と言ってる方がいるが、それは大いなる勘違いである。
インサイドフォースキャンセラーは外側にアームを引っ張り、確かに機械的にカンチレバーや針先にストレスをかけている。
しかしインサイドフォースキャンセラーをかけないと、ちゃんとしたチャンネルセパレーションの精度が出ない。音は右や左に寄る事になる。当然アームは安定した動作が出来ない。
メーカーの目盛りを信じてもかまわないが、やはり耳で聞いて合わせて欲しい。
なので、ラテラルバランスも、水平に置くのもとても大切な事である。総ては最後、目と耳で合わせるしかないのである。
針圧はかなりシビアに行っていただきたい。本当に小数点以下の針圧の調整で、音は全く違うと言う事である。重すぎても軽すぎでも宜しくない。
メーカーが指定している範囲内で、色々調整してみて針圧計を用いてシビアに行っていただきたい。時にはメーカーの指定している範囲内から増減する事もある。
そして、レコードの録音レベルによって針圧を変えてる方をお見受けするが、それは間違えている。
調整がしっかりしていれば、総てのレコードをしっかりトレースするところが、一点だけ必ずどんなトーンアームにもカートリッヂと合わさってある。
トーンアームの調整、それは神秘的であり、オーディオの無限大のロマンである。
貴方のトーンアームの調整は、しっかりした精度が出ているだろうか?ずれている筈である。ウエスタンスピリッツのオーディオテクニカAT-1005Ⅱは、三年はかかった。
そんな意味でならば、ラテラルもインサイドフォースキャンセラーもないオルトフォンのトーンアームは、ターンテーブルが水平にセットされていれば、アームが水平を保ちSPUを使う限りに於いて、とても使い易いありがたいトーンアームである。
私が本当に良いと思うトーンアームはサエクのWE-506/30である。そこにサテンのカートリッヂM-21が付いたら最高である。しかし多分、誰にも鳴らせないと思うが。
本当に良いトーンアームとは、カートリッヂの針先だけがストレスなく音溝を捉え、アームは針圧と水平を絶対的に保ち、一切の鳴きがない滑らかに動く動作をするトーンアームの事である。
それを最大限に引き出すのは、貴方の調整能力だけである。トーンアームの調整は物凄く難しく、偶然に決まった等、絶対にあり得ない。
とにかく時間がかかる、オーディオとは、じっくり待てる忍耐力と、たゆまぬ努力が常に必要である。