生産性より音が大切
機械より人の手、生産性より確実なものを。言葉はCMとは少し違いますが、私も常にこれだけは肝に命じております。そして、ハンドメイドで作る大切さを痛いほど思い知りました。
今日は、その事を主観で呟きます。
このお話は、10年ほど前の事です。もっと生産性とコスト削減を考え、利益をあげようと、仲の良い超大手ケーブルメーカーに、ウエスタンワイアーで、ウエスタンスピリッツのケーブルの雛形を作っていただいた事がありました。
まだリッツ線のリの字もない頃のお話です。
しかし、出来上がってご持参になられたウエスタンスピリッツの雛形ケーブルの音は、似て非なるものでした。
ちょうどシールドの様な、組紐の様に編んだものに絹巻きしたワイアーを通し、テンションをかけて引っ張って作れば、ぴったり締め付け、外被を巻く必要がなくなるとのご説明でした。
しかし、説明を聞いただけで、ケーブルに絹糸を強く巻いたように引き締まらない事は明白です。
シールドのテンションも甘く、フォーカスがボケていました。
ウエスタンスピリッツは、被せたシールドを、糊を落としたタオルで何度も強くしごきます、そうする事でシールドは、綺麗に引き締まる様に作られているのです。
生産性とコスト削減とはこう言う結果を招きます。思ったとおりだったのです。
そして、失礼とは思いましたが、社長さんに、ウエスタンスピリッツのハンドメイドケーブルを繋ぎ、同じソフトで聞いていただきました。
絶句していました。「しっかりとした経験と技術を元に真面目に作られたケーブルとは、こんなに音に差があるものか」と。
しかし「大手ケーブル会社は、利益と生産性を追及するため、やはり貴方とは性格が違う」ごもっともです。
「我々は町にある美味しいパン屋さんではなく、全国で売られているいつも同じ味のヤマザキパンで良いのです」と仰られました。
たくさんの社員を路頭に迷わす事は出来ない。「それにしても、久しぶりに横っ面をはられた様な音を聞いたよ、私も昔は、貴方と同じ志だった」と感想をのべられました。
ウエスタンスピリッツと大手ケーブル会社は、音は似て非なるものですが、どちらも正解なのだと私は思いました。
何故なら?大手ケーブル会社となると、厳しい規格をクリアーしなければ商品化出来ないのに対し、ウエスタンスピリッツは商品ではなく、自由で規格外の音を追及しただけの、作品であると言う事なのかも知れません。
私は、これからも生産性より、コスト削減より、時間はかかりますが、ハンドメイドに拘りたいと思います。そして、作れなくなった時、引退致します。