親離れ
この先どうなるか見当もつかない、しかし今が決断の時だと思った、情けない話し、何日も毎晩泣いてきた、そして、涙も枯れ果てた、もうどうにもならない。
母に老人ホームに入ることを伝えてみた、意外や意外、母はまるで待ち望んでいたかのように、あっさり老人ホームの入居を快諾してくれたと思う。
母はそれから「今まで悪かったな」この言葉ばかりを何度も繰り返す、かわいそうに思うが、これが現実であり、互いの為に最善の方法なのだと思う、でも介護は一人一人の症状があり、何処にも答えはない。
母はただ我々夫婦の行く末だけが気がかりなのである、もっといえば、私が元気で幸せならただそれだけでいいと思っている、その本心を初めて悟った気がする。
親とはそんなものなのかも知れない、今までは我々夫婦と同じ家の中で好き放題出来た、それはもう出来なくなる。
でもそれは母も呆けてはいるが、心のどこかで分かっているのだと思う。
まだ部屋は決まっていないが、それとなく母に伝えた「母さん、今まで一緒に暮らして来たけれど、もうこれ以上母さんの介護は出来なくなった」と。
母さんは随分小さくなって見えたが、ハッキリ私に言った「その方が良いね」と、母は心のどこかで分かっていた事になる、我々夫婦のお荷物になっていた事を、ならば…
あまりに素直な母に私は、涙が止まらなかった、施設の方は多分こう話すだろう「里心がつくので、少しの間あまり頻繁に会いにこない方がいいと思います」と 。
現実的に言葉は悪いが、しばしのお別れになるのである。
私が生まれてからの記憶を辿ってみる、私は物心ついてからずっと不良だった、ろくな子供ではなかった、親の言う事を一切聞かず好き放題やってきた。
何度も警察のお世話になった、総て傷害事件である、しかしそんな私を母は何度も身元引受人になってくれ「私の息子は、何の理由もなく人を傷付ける子ではない、余程理にかなわない事があったのだろう」と何時も私をかばってくれた、感謝にたえない
しかし、アルツハイマー型認知症になってしまった、介護のプロからしても、アルツハイマー型認知症の方は介護がとても複雑で難しく、素人では出来ないとの事、確かにうなづけた。
母さん…残念ながらもうあまり会えなくなるけど、施設の方々の言う事を聞いて、みんなと仲良く穏やかに暮らして下さい、心苦しいがこれがお互いの為なのです。
英ちゃん、私はあなたを捨てた訳ではありません、これからも私は、ずっとあなたの息子ですよ、あなたは私の最愛の母親なのです、大好きだよ。
初めて家内と自分に言いたい「よくここまで頑張った」と、でも自分の心の中の言い訳に過ぎない。
そして二軒の施設を見学して帰ってきた、一件目はとてもウェルカムで、入居者のお顔が明るかった、施設の中にはデイサービスもある。
二軒目は建物が新しく清潔だったが、各階でのレクリエーションしかなく、とても閉塞感を感じ、入居者さん達がかわいそうに見えた。
考えて、一件目にしようと思う、いくら手が離れると言っても、私を生んで育ててくれた大切な母親なのである、ウェルカムでないところには入って欲しくない。